不眠症かどうかは睡眠時間の長さにかかわらず、『朝起きたときにすっきりしているか』『身体や気分に不調がないか』などで判断されます。なんらかの不眠を訴える人は、実に日本人の20%におよぶと言われています。
その多くは『心理的な不眠』です。その他、さまざまな要因が関係して起こると考えられています。
- 睡眠周期の乱れ
睡眠には、浅い眠りで夢を見たりする『レム睡眠』と、深い眠りで身体や脳を休める『ノンレム睡眠』があります。加齢とともに、最も深い眠りであるノンレム睡眠の第3段階が減り始め、70歳以降ではほとんどなくなってしまいます。高齢者の方に多いのですが、夜中に何度も目が覚める中途覚醒が起こりやすくなります。 - 体内時計のずれ
人間には『昼間活動して夜眠る』というリズムが元々備わっています。これを司っているのが、脳の視床下部にある体内時計です。年を取ると体内時計が前の方にずれるため、朝早くに目が覚めてしまう早朝覚醒が起こりやすくなります。 - ストレスと入眠障害
医学的に問題のない一時的なものと、問題のある持続性のものがあります。入眠障害は、『明日、大事な仕事があるのに寝つけなかったらどうしよう』と気にしすぎると、眠れないこと自体がストレスになり、慢性化、重症化してきます。
カウンセリングと漢方処方
西洋薬には、脳の大脳辺縁系の神経終末に直接作用する薬(睡眠薬)と、小脳に作用し睡眠時の緊張や不安を取り除き寝つきをよくするお薬(導眠剤)が、その方の症状に応じて処方されます。
こうしたお薬は、服用するとすぐ眠くなりますが、漢方薬にはそのようなタイプの薬がありません。漢方では、不眠症は心身のバランスが崩れているために起こると考えます。そこで、そのような心身のひずみを是正し、本来の自然な眠りを取り戻すことを目指します。
【処方例】
サンソウニントウ、ケイシカリュウコツボレイトウ、キヒトウ、サイコケイシカンキョウトウ、カミショウヨウサン、ハンゲコウボクトウ、ヨクカンサンカチンピハンゲ
体質改善・快方のプロセス
一過性の不眠症(旅行時など)の場合、漢方薬もすぐに効くケースがあります。ただ、持続性の不眠症の場合は、すぐに効くことはまずありません。根気よく漢方薬を継続して頂くことになりますが、『眠れない』と思い込むこと自体がストレスになるケースもあります。そんなときは無理をせず、睡眠薬を併用することも検討します。
こうした治療により、まず『よく眠れた』と感じるようになり、やがて寝つきの悪さも改善されていきます。『眠れた』という自信が好循環を生み出します。
養生法
入眠障害のある方は、つらくても朝早く起き、太陽の光を浴びるようにしましょう。朝日を浴びることによって、体内時計が調整され、夜に眠気が起こりやすくなります。また、眠る2~3時間前に軽い運動をしたり、ぬるめのお風呂に入ることで寝付きをよくすることができます。寝酒と称してアルコールに頼る人もいますが、後半の眠りを浅くする作用があるので熟睡ができなくなります。避けるようにしてください。