不妊症

不妊症とは、性生活がふつうにあり、避妊をしていないにもかかわらず、長期間(二年以上)妊娠しないことをいいます。大事なことは、安易に自己判断せず、産婦人科で不妊症の専門的な検査を行うことです。何らかの身体的な異常(器質的異常)が認められた場合は、西洋医学的な治療を優先します。

【女性側の原因】

  • 卵巣機能の異常
    無排卵、排卵回数が少ない、排卵後に卵巣からのホルモン分泌が十分でない、などのために妊娠しないものです。ホルモン療法や排卵誘発法が用いられます。

  • 卵管の異常
    炎症や子宮内膜症などのために卵管(卵子と精子が出会う)が癒着することによる異常です。手術で卵管を通すこともあります。

  • 子宮の異常
    子宮の発育不全、癒着をともなう子宮後屈、子宮筋腫、子宮内膜の異常、頸管粘液の異常、膣の異常などがあげられます。子宮後屈や子宮筋腫には手術、子宮内膜の異常には黄体ホルモンや性腺刺激ホルモンによる治療法、頸管粘膜の異常には卵胞ホルモン治療、頸管に炎症があれば、その治療をします。

  • 原因不明の場合
    基礎体温の異常や低体温により、受精はするけど着床ができないというケースが多いです。原因不明の不妊症の大半を占めています。漢方が最も得意とするのがこのケースです。 その他、こころの悩みや不安などが原因になっている場合もあります。

【男性側の原因】

  • 精子の異常
    一回に射精される精液の量が2ml以下、精子の濃度が1mlあたり2000万以下、前進運動精子が50%以下、正常形態精子が75%以下の場合を指します。原因は精液をつくる精嚢や前立腺の異常、または先天的な機能不全です。また、過度のストレスがかかることで、精子の異常が起こると言われています。ホルモン療法やビタミン剤の投与などで治療が行われますが、難しい場合が多いです。ただし、漢方が得意とするケースになります。 この他に、人工授精という選択肢もあります。

  • 性交障害
    男性器の異常、精神的な原因などから生じる勃起不全(インポテンス)などで性交ができない状態をいいます。原因を突きとめて、病気や異常をとりのぞくことが大切です。精子に異常がなければ人工授精も可能です。

カウンセリングと漢方処方

上述しましたように、不妊症の原因によって漢方治療の方法も異なります。また、残念ながら漢方では対応できないケースもありますので、まずはお問い合わせください。ここでは原因の中で最も多い『着床異常(女性側)』および『精子の異常(男性側)』のケースについて解説いたします。

『着床異常(女性側)』
平熱(低温期)が36.0度以下の場合、受精しても直証する確率が極端に下がります。また、基礎体温が乱れている場合も(排卵時、高温期にすぐ移行しない等)着床の確率が下がります。

まず、『低体温の克服』と『基礎体温の正常化』を目指して頂きます。漢方で良く用いられるのが『血の道症』を治療するものです。女性ホルモンのバランスを整え、身体全体の血行をよくします。そのことにより子宮の血流も良くなります。その他、漢方では『腎』と言う概念があり(腎臓とは違います)、泌尿器系をはじめ生殖系、ホルモン系、神経系などに関する働きを含む大変幅広いものです。不妊症のかたは、この腎の働きが弱っていると考えられます(腎虚)。腎虚になると、疲労・精力減退・発育不良などの症状が現れます。その際は、腎虚の状態を補うために『補腎剤』を用います。

男性不妊や滋養強壮にも大変評判を頂いております。低体温を速やかに改善したいとおっしゃる場合は、『おたね人参』を用います。聞き慣れない言葉だと思いますが、いわゆる朝鮮(高麗)人参のことです。高額商品になりますが、その分、効果はシャープなケースが多いです。

『精子の異常(男性側)』
男性不妊もほとんどの場合が『腎虚』がかかわっていると考えられます。この場合、『補腎剤』が第一選択となります。精子の異常のもう一つの大きな原因は、必須のミネラルである亜鉛が不足することです。亜鉛は精子や精巣の中にも数多く含まれており、亜鉛不足におちいると、精子の減少・精子の異常・精子の運動量低下などが起きます。そして、精力減退なども起きる可能性があります。食事で亜鉛を補うか、それが難しい場合、サプリメントの摂取をお勧めします。

『まったく原因が分からない場合』
ありとあらゆる不妊症の治療(民間療法も含め)をされても、妊娠に至らない方もいらっしゃいます。精神的にも辛く、みなさま切実です。こんな時はアグリコン型イソフラボンを飲んで頂くことにより、妊娠されるケースがあります。その効果について、東海産婦人科学会で澤田富夫医師が発表しております。(詳細をご希望の方は、当店までお問い合わせください)

【処方例】
トウキシャクヤクサン、ケイシブクリョウガン、カミショウヨウサン、ウンケイトウ、ホチュウエッキトウ、ハチミジオウガン、ゴシャジンキガン

体質改善・快方のプロセス

女性側が原因の場合
私はよく、女性の身体、特に子宮を苗床に例えます(失礼な表現ですがお許しください)。不妊症はこの『苗床』が栄養不良で枯れかけていると考えます。まずは、栄養豊かで正常な『苗床』を作って頂くことに専念します。 個人差はありますが、もっとも確率の高い方法を用いても半年間はかかります。

正常な『苗床』が作られたかどうかは、体調と基礎体温からある程度、判断することができます。それ以降に高確率で妊娠されます。まずは1年間を目処に漢方療法にトライしてください。妊娠してからも、漢方薬を継続されることを強くお勧めします。お母さん、赤ちゃんともに健康状態を保つことができます。その他、精神的なケアも必要なケースがあります。

ここで当店に来られた方の実例をご紹介します。両親から孫の誕生を期待され、そのプレッシャーに潰れそうになっていらっしゃいました。また、必死で専門書を読み、インターネット調べた専門病院を巡り、本当に涙ぐましい努力をされたそうです。もちろんタイミング療法も試しておられ、ご主人は夫婦の営みが義務化されたように感じ、夫婦仲までギクシャクされてきたようです。これは、不妊症相談でよくあるケースです。

不妊症は、肉体的負担(検査、体外受精など)、精神的負担(両親からの期待など)ともに奥様の方が受けやすいものです。もちろん不妊症は奥様だけの問題ではなく、ご夫婦の問題です。私は、まずご主人にも店に来てもらい、奥様をいたわり協力することをお願いしました。次に、奥様には、不妊治療は元来、新しい生命体を生み出すご夫婦での共同作業。つらいものではなく、喜びを感じるものであることを説明させて頂きました。

ご主人の立場を理解し、お互いなるべく自然に近い状態でいたわり合う。その結果、漢方薬が後押しして自然妊娠の可能性が高まることを申し上げました。 まず、肩の力を抜いて、半年間はご自身の体を作り直すつもりで漢方を飲んでくださいと。すると、目がつり上がって、いらいらされていた奥様の表情が和らぎ、思わず一筋の涙がこぼれました。よっぽどつらかったのでしょう。そのつらさからご自身を解放されたことが、わずか2ヶ月で妊娠された結果につながったのだと思います。

■男性側が原因の場合
漢方薬を服用することで、少しずつ『腎』が補われていきます。自覚症状としては、精力の改善はもちろん、精神的・肉体的疲労もなくなってきます。おおよそ4~6ヶ月間で顕著な効果が現れるケースが多いです。亜鉛サプリメントを摂られた場合はさらに効果が早くあらわれることも多いです。20歳代の方でしたら半月、30歳代の方でしたら1ヶ月、40代異常の方でしたら2ヶ月を目安に精液の質(粘り・量)が変わっています。

また、止まっていた朝立ちが復活するなどの効果も期待できます。自覚症状の改善を実感されたら、一度病院で精液の検査をされるとよいでしょう。

養生法

■女性側が原因の場合

基本的に『冷え症』の養生法と同じになります。

  1. 朝食を摂る
    体温や代謝を高めて体を目覚めさせるために朝食を摂りましょう。
  2. 温かい飲み物を摂る
    カフェインを含むものは避け、葛湯やしょうが湯、カモミールティーなどがおすすめです。
  3. 運動で筋肉を増やす
    筋肉を増やすことが体から発散する熱量を増やす一番の近道です。
  4. 温めのお風呂にゆっくり入る
    末梢血管を拡張させ、リラックスルすることによって自律神経の乱れも調節できます。
  5. 冷暖房や衣服の調整
    冷房のかかりすぎは厳禁です。重ね着などで対処してください。

■男性側が原因の場合

男性の場合の『冷え』『ストレス』が最大の悪化要因です。前述しました『腎』はこの2要因に弱いからです。

  1. 身体を冷やさない(腎の保護)。
  2. ストレスをためないようにする(腎の保護)。