現代人は心身ともにストレスを受け、心と身体のバランスを乱し、さまざまな苦情を訴えるケースが多いものです。
特に心の病は、お子さんであれば夜尿症やアトピー性皮膚炎、大人であれば糖尿病や高血圧症といった病気に悪影響を及ぼします。
ストレスに打ち勝つために、心と身体のバランスを整えることが大切です。そのためにはお薬と同時に、周囲(家族)理解が必須です。また病人本人がストレスを発散するために趣味を持つことも有効な手段と言えます。
『病は気から』と言われるように、心の病が身体の病を引き起こすことがよくあることです。また逆に、身体の病が心の病を引き起こすこともあります。
神経症
心理的な原因によって起こる心の病です。
- 不安神経症
急になんともいわれない漠然とした不安に襲われ、動悸や冷や汗、胸苦しさ、呼吸困難といった症状を起こします。 - 強迫神経症
ガス栓、電気器具等のスイッチの始末が気になって、何回も確認しなければ気が済まないというような強迫観念が強くなり、日常生活に支障をきたして悩む状態を言います。 - 恐怖症
人に会ったときに顔が赤くなる赤面恐怖症や、人と会うのが怖い対人恐怖症などの強い恐怖感をいだきます。 - 心気症
検査をしても異常がないのに、ささいな身体の苦情を気にして重大な病気にかかっているのではないかと思い悩む状態です。 - ヒステリー
対人関係や生活上の問題が心理的なゆがみを起こし、目が見えない・感覚がなくなるといった身体症状や、健忘・もうろう状態といった精神症状が現れます。
心身症
心の悩みで起こる身体の病気です。たとえば、仕事や家事のことで悩み、高血圧や十二指腸潰瘍が発症する等の病状を現れます。ただし、心身症は表面的に現れるのは身体症状だけで、精神症状はあまり目立ちません。
うつ病
理由もなく気分が沈み、なにごとも悲観的に捉えるといった憂鬱感があり。暗黒の世界に押し込められたような感覚になります。
その結果、食欲不振、不眠、便秘等、さまざまな身体症状が起こります。
これら心の病を治療する西洋薬はあまりなく、精神安定剤などを処方する程度にとどまります。
カウンセリングと漢方処方
漢方ではもともと精神的な要因を重視しています。特に『気』を調整・強化する各種の『気剤』は種々の心の病に効果的で多用されています。
漢方では心の病を『気』の流れが停滞して起こると考えます。『気』が停滞した状況を『気滞証』と呼びます。
漢方では『心と身体は表裏一体』とみなしており、『気滞証』でも精神症状だけではなく身体症状も現れると考えます。
『気帯証』の精神症状としては、『憂鬱感、不安感、不眠、その他不定愁訴』が、身体症状としては『のどの違和感、鬱血、むくみ、動悸、息切れ、ぜんそく、頭痛』などが認められます。
【漢方薬で対応】
『気』のバランスを整える処方が第一優先となります。その他、身体症状を伴う場合は、それに合わせた処方が有効です。
本当に数多くの種類の漢方薬が使われますが、牡蠣(ボレイ)=牡蠣の貝殻を使った生薬がよく使われます。
また、最初に身体的な症状を取り除く処方が有効なケースも良くあります。体調や体力を強化することで、精神面でも徐々に効果が現れてきます。
うつ病の場合は神経症と違って自分の病気に気づいていない人が少なくありません。また、重症の人は自殺する危険性もあるので、まずはクリニックを受診し、適切な抗うつ剤を服用した上で、漢方薬をとる必要があるケースもあります。
【処方例】
サイコカリュウコツボレイトウ、ケイシカリュウコツボレイトウ、ハンゲコウボクトウ、サイボクトウ、ヨクカンサン、カミショウヨウサン、オウレンゲドクトウ
体質改善・快方のプロセス
私は『心の病』を、心の骨折と表現します。スキーなどで足を複雑骨折してギブスをはめていたら、他のだれもが重傷だと分かりますが、心の病は見かけではわかりにくいので、周囲の人たちの理解が得にくいものです。
心の骨折(特に複雑骨折)は、簡単に回復するものではありません。また、本人の責任でもないので、漢方の効果が現れるまでは周囲の人たちが暖かく見守ってあげるという姿勢が何より大切です。
また治療期間中、『頑張って』という励ましの言葉もかけないように注意してください。本人はもう十分すぎるくらい頑張っているのですから。
漢方が効き始めたという徴候は、『周りの人に対して気遣いをし始める』ということである程度、判断できます。『心の骨折』がひどいときは自分のことで精一杯で周りが見えなくなるのも致し方ないです。時には肉親に対して、ひどい言葉を発するケースもありますが、それは本人が言っているのではなく、『病』が言わせていると上手に受け流してください。そうでないと、今度は周りの人たちが『心の病』になりかねません。
また、リフレッシュのために温泉でも行こうか、と考えられる方も多いですが、『心の骨折』の状態を良く見極めてからにしてください。もし複雑骨折で絶対安静が必要なときに、温泉旅行に行くことなどもってのほかです。リハビリはできる範囲で少しずつ行うことが必要です。
本人が『どこにも行きたくない』『誰とも会いたくない』と訴えている場合はそれにしたがってください。漢方が働き始めると、自ら『外に出てみたい』と訴えるようになります。
養生法
養生法はその方の症状により異なりますが、まず申し上げたいこととしましては、『胃の働き』を整えることです。
胃の働きが怠けてくると、胃の中に不必要な水分が排泄されずにたまってきます(胃内停水)。この不良水分が原因となり、神経症状のさまざまな苦情が出やすくなります。 脂っこい食べ物や過度の飲酒、唐辛子のような香辛料の摂りすぎも胃に負担をかけます。もちろん水分の過剰摂取は『胃内停水』に直接結びつくので厳禁です。